テレワークにおける情報漏洩リスクの実態と対策
2025.05.16投稿、2025.05.16更新
テレワークの浸透により、企業の情報セキュリティ対策は新たな課題に直面しています。多くの企業が情報漏洩対策に取り組んでいますが、実際の運用では従来型セキュリティの限界、従業員の意識向上、システム管理の複雑化といった具体的な課題が浮き彫りになっています。
本記事では、これらの課題を解決するための実践的な対策を解説します。情報漏洩のリスク分析から最新のセキュリティアプローチまで、現場のIT担当者の視点に立って説明を進めます。
なぜ今、テレワークの情報漏洩対策が重要なのか
テレワークの普及により、従来の情報セキュリティ対策は大きな転換点を迎えています。オフィス中心の従来型セキュリティでは対応できない新たな課題に直面する中、その実態と背景を見ていきましょう。
従来型セキュリティの限界
企業の情報セキュリティ対策は長年、オフィスを中心とした「境界防御」の考え方を基本としています。社内ネットワークと社外ネットワークを明確に区分けし、社内を「安全な領域」として扱うことで、効率的なセキュリティ管理が実現可能でした。
しかし、テレワークの普及に伴い、この境界防御の考え方には根本的な見直しが必要です。社員が自宅やサテライトオフィスなど、様々な場所から業務システムにアクセスする現代において、「社内」と「社外」の境界は急速に曖昧化しつつあります。従来の固定的なセキュリティポリシーでは、このような柔軟な働き方に十分な対応ができません。
加えて、クラウドサービスの活用が一般化し、業務データの保管場所も急速に多様化しています。このような環境変化により、従来の「社内のシステムさえ守れば安全」という考え方は有効性を失いつつあります。企業の情報資産は、従来の境界を越えて、様々な場所に分散しています。
テレワーク特有の脆弱性とその影響
テレワークにおける情報セキュリティの課題は、単に場所の問題だけではなく、テレワーク環境特有の新たな脆弱性が情報漏洩のリスクを高めています。
第一に、個人所有デバイスの業務利用(BYOD)の増加があります。コスト削減の観点から個人所有デバイスの活用を認める企業も増加していますが、これらのデバイスのセキュリティ状態を一元的に管理することは容易ではありません。社用端末と比べてマルウェア感染のリスクが高く、また紛失や盗難のリスクも見過ごせません。
第二に、家庭内ネットワークの脆弱性が挙げられます。一般家庭のWi-Fi環境は、企業の社内ネットワークと比べて脆弱な場合が多く、通信の傍受や不正アクセスの危険性が高まります。また、家族との共用パソコンの利用や、業務用アカウントの使い回しといった、セキュリティ上の問題も発生しやすい状況です。
第三に、従業員の行動変化があります。オフィスでの対面コミュニケーションが減少する中、業務連絡に個人のチャットアプリを使用したり、機密情報を含むファイルを安易にクラウドストレージにアップロードしたりするケースが増加しています。このような「シャドーIT」の利用は、情報漏洩のリスクを著しく高めます。
BYOD、シャドーITについては、次の記事も参考にしてください。
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テレワーク環境における情報漏洩の3つの経路
テレワークにおける情報漏洩リスクは、技術的要因、環境的要因、人的要因の3つの観点から考える必要があります。ここでは、各要因におけるリスクと影響を詳しく見ていきます。
技術的要因:システムやネットワークの脆弱性
テレワーク環境では、まず技術的な脆弱性に注意が必要です。従来のオフィスワークとは異なり、様々なシステムやネットワークの接続ポイントが増加するため、セキュリティ上の課題が生じやすくなっています。
特に深刻なのが、リモートアクセス環境における脆弱性です。多くの企業が採用しているVPNでは、設定ミスや脆弱性の放置により不正アクセスのリスクが生じ、リモートデスクトップでは外部公開されたポートがパスワードの総当たり攻撃の標的となることがあります。
さらに深刻な問題として、クラウドサービスの利用拡大に伴う新たな課題が挙げられます。アクセス権限の設定ミスによる情報漏洩が増加しており、結果として意図せず社外から機密情報にアクセス可能な状態となってしまうケースが報告されています。
環境的要因:自宅やサテライトオフィスでの業務
次に、業務を行う場所そのものに関わるリスクについて考えてみましょう。自宅やカフェ、サテライトオフィスなど、従来のオフィス環境とは異なる場所での業務には、新たなセキュリティ上の課題が潜んでいます。
特に懸念されるのが画面の覗き見や通話の盗聴による情報漏洩です。公共の場所でのテレワークでは、機密情報を含む画面が第三者の目に触れやすく、また通話内容が周囲に漏れる可能性も高くなります。自宅であっても、家族がいる環境では同様のリスクが存在します。
また、印刷した書類の管理も大きな課題となっています。オフィスであれば、シュレッダーや施錠付きの書類保管庫を利用できますが、自宅環境ではそうした設備が整っていないことが一般的です。結果として、機密文書が適切に廃棄されず、情報漏洩のリスクが高まります。
人的要因:従業員の意識と行動
最後に、従業員の意識と行動に関するリスクについて見ていきましょう。テレワーク環境下では、従業員の業務遂行状況を直接確認することが難しく、結果としてセキュリティ意識の低下や不適切な行動が生じやすくなります。
具体的には、業務の効率性を優先するあまり、セキュリティポリシーを無視した行動を取ってしまうケースが増加しています。社内システムへのアクセスに時間がかかるため、機密データを個人のPCにダウンロードして作業を行ったり、承認されていない外部サービスを利用したりする事例が報告されています。
加えて、在宅勤務の長期化によるストレスや、職場との心理的な距離感がセキュリティ意識の低下を招きやすい状況となっています。その結果、業務用のパスワードの使い回しや、家族と共用のPCでの機密情報の取り扱いなど、基本的なセキュリティ対策が疎かになります。
ゼロトラストの考え方に基づく包括的な対策
これまで見てきた多様な情報漏洩の経路に対し、どのような対策が有効なのでしょうか。ここでは、新しいセキュリティの考え方と、具体的な実装方法について解説します。
VPNとリモートデスクトップの限界
多くの企業がテレワーク環境の構築にあたり、VPNとリモートデスクトップを組み合わせたシステムを採用しています。この方式は広く普及していますが、いくつかの本質的な課題があります。VPNの場合、接続さえ確立できれば、社内ネットワークへのフルアクセスが可能となり、一度認証を突破されると、甚大な被害につながるリスクがあります。また、リモートデスクトップは操作性の低下や通信帯域の圧迫といった実用面での課題も抱えています。
「信頼しない」を前提としたセキュリティ設計
こうした課題を解決するため、近年注目を集めているのが「ゼロトラスト」の考え方です。これは「何も信頼しない」ことを前提としたセキュリティモデルであり、ネットワークの内側も外側も同様に「信頼できない」とみなします。このアプローチでは、ユーザーの認証、デバイスの状態、アクセスされるリソースなど、あらゆる要素を常時検証することで、より強固なセキュリティを実現します。
エンドポイントセキュリティの重要性
ゼロトラストの実現において核となるのが、エンドポイントセキュリティの強化です。テレワーク環境では、社員が使用する端末そのものが防衛線となります。マルウェア対策や暗号化、アクセス制御といった基本的な対策に加え、デバイスの健全性評価や振る舞い検知など、多層的な防御が求められます。
データレスクライアントによる新たなアプローチ
より抜本的な解決策として、データレスクライアントが注目を集めています。これは従来のリモートアクセス方式とは異なり、ローカル環境にデータを保存せず、データ処理だけを実行する仕組みです。業務データは全てサーバー側で管理することを基本としながら、必要に応じてオフラインでの作業も可能なため、インターネット環境に依存せず業務を継続できます。この仕組みでは端末側にデータが残らないため、紛失や盗難によるデータ漏洩のリスクを最小限に抑えられます。
ゼロトラスト、データレスクライアントについては、次の記事も参考にしてください。
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ゼロトラストとは?メリットやデメリット、実現するためのポイントを紹介
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データレスクライアントとは?仕組みやVDIとの違い、メリット・デメリットを解説
持続可能な情報セキュリティ体制の構築
ここまで、テレワーク環境における様々な技術的対策について見てきました。しかし、これらの対策を効果的に機能させるためには、組織全体でセキュリティを維持・向上させていく体制づくりが不可欠です。ここでは、その具体的なポイントについて説明します。
セキュリティポリシーの見直しと従業員教育
技術的な対策と同様に欠かせないのが、組織全体でのセキュリティ意識の向上です。これを実現するため、テレワークに対応した新しいセキュリティポリシーの策定と、その周知徹底に取り組む必要があります。重要なのは、ポリシーが形骸化しないよう、定期的な研修や啓発活動を通じて、従業員一人一人がセキュリティの重要性を実感できる取り組みを続けることです。
インシデント発生時の対応プロセス
どれだけセキュリティ対策を講じても、インシデントの発生を完全に防ぐことは困難です。そのため、インシデントが発生した際の対応プロセスを事前に確立しておくことが必要になります。被害の最小化、原因分析、再発防止策の策定など、一連の流れを明確化し、必要に応じて訓練を実施することで、実効性の高い体制を構築できます。
定期的な脆弱性評価とPDCAサイクル
セキュリティ対策は、継続的な改善が欠かせません。定期的な脆弱性診断や監査を実施し、新たな脆弱性や課題を早期に発見することが求められます。また、発見された課題に対して迅速に対応し、その効果を評価するというPDCAサイクルを確立することで、環境の変化に柔軟に対応できる体制を維持できます。
テレワーク時代の情報漏洩対策を考える
テレワークにおける情報漏洩対策は、単なる技術的対策だけでは不十分です。組織全体でセキュリティ意識を高め、適切な管理体制を構築することが不可欠です。従来型のセキュリティ対策は、境界防御を中心とした考え方に基づいていましたが、テレワーク環境では新たなアプローチが必要とされています。特に重要なのは、「情報を持ち出さない」という発想の転換です。
データレスクライアントによる「セキュアな業務領域の生成」というアプローチは、テレワーク時代における新たなセキュリティ標準として期待されています。端末内に業務データを残さず、紛失や盗難のリスクを大幅に低減できる点は、多様な働き方が求められる現代において大きな意義を持ちます。各組織の実情に合わせた対策を検討し、継続的に改善していくことで、安全で生産性の高いテレワーク環境を実現することができるでしょう。
データレスクライアントである「セキュアコンテナ」なら、隔離されたセキュアな業務領域を生成し、その中でのみ業務を行うことができるため、端末内に業務データを残すことなく、高度なセキュリティを実現します。業務終了時にはその領域を削除するため、MDMの導入やリモートワイプを使用せずとも、万が一端末の紛失や盗難が発生した場合でも、重要なデータを失う心配がありません。さらに、スマートフォンやタブレットからのセキュアブラウザによる作業にも対応しているため、多様な働き方にも柔軟に対応できます。
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